統計学を学び始めると、多くの人が最初につまずくのが
「結局、この場合はどの検定を使えばいいの?」
という疑問です。t検定、カイ二乗検定、ANOVA、F検定、ウィルコクソン検定……。名前は聞いたことがあっても、それぞれの違いが分かりにくいですよね。実は、検定は「何を知りたいか(目的)」によって選びます。そして、もう一つ重要なのが、
検定統計量がどの確率分布に従うか
ということです。検定では、まずデータから検定統計量を計算し、その値が帰無仮説のもとで従うt分布・F分布・カイ二乗分布・正規分布などを利用してp値を求めます。
この記事では、検定を目的別に整理し、
- どんな場面で使うのか
- 検定統計量
- 従う確率分布
までまとめます。
① 平均を比較したい
「平均値が違うか」を調べたいときに使う検定です。
1標本t検定
ある集団の平均が基準値と異なるかを調べます。
例えば、「クラスの平均点は70点と違うか」「製品の平均重量は規格値と違うか」といったケースです。
帰無仮説
\(H_0\):\(\mu=\mu_0\)
検定統計量
\(t=\displaystyle\frac{\bar{x}-\mu_0}{s/\sqrt n}\)
\(s= \displaystyle\sqrt{ \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^{n} (x_i-\bar{x})^2 }\)(標本標準偏差)
従う分布
\(t\sim t(n-1)\)(自由度 \(n-1\) の \(t\) 分布)
2標本t検定(独立)
2つの独立したグループの平均を比較します。
例えば、「男女で平均身長が違うか」「A組とB組の平均点が違うか」などです。「独立」とは、一人が両方のグループに入らないことを意味します。
帰無仮説
\(H_0\):\(\mu_1=\mu_2\)
検定統計量(Welch版)
\(t= \displaystyle\frac{\bar{x}_1-\bar{x}_2} {\sqrt{\frac{s_1^2}{n_1}+\frac{s_2^2}{n_2}}}\)
\(s_1= \displaystyle\sqrt{ \frac1{n_1-1} \sum (x_i-\bar{x}_1)^2 }\)
\(s_2= \displaystyle\sqrt{ \frac1{n_2-1} \sum (y_i-\bar{x}_2)^2 }\)
従う分布
\(t\sim t(\nu)\)(Welch-Satterthwaite近似による自由度)
対応のあるt検定
同じ人を2回測定した場合に使います。
例えば、「勉強前と勉強後の点数」「ダイエット前後の体重」などです。
まず差 \(d_i=x_{i,\mathrm{after}}-x_{i,\mathrm{before}}\) を計算します。
帰無仮説
\(H_0\):\(\mu_d=0\)
検定統計量
\(t= \displaystyle\frac{\bar d}{s_d/\sqrt n}\)
\(s_d= \displaystyle\sqrt{ \frac1{n-1} \sum(d_i-\bar d)^2 }\)
従う分布
\(t\sim t(n-1)\)
分散分析(ANOVA)
3群以上の平均を比較するときに使用します。
例えば、「3種類の勉強法」「4種類の薬」「5つの店舗」などです。\(t\) 検定を何回も行うと偶然有意になる確率が高くなるため、3群以上ではANOVAを使います。
帰無仮説
\(H_0\):\(\mu_1=\mu_2=\cdots=\mu_k\)
検定統計量
\(F= \displaystyle\frac{MS_{\mathrm{between}}} {MS_{\mathrm{within}}}\)
\(SS_{\mathrm{between}} = \displaystyle\sum_{i=1}^{k} n_i(\bar{x}_i-\bar{x})^2\)(群間平方和)
\(SS_{\mathrm{within}} = \displaystyle\sum_{i=1}^{k} \sum_{j=1}^{n_i} (x_{ij}-\bar{x}_i)^2\)(群内平方和)
\(MS_{\mathrm{between}} = \displaystyle\frac{SS_{\mathrm{between}}} {k-1}\)(群間平均平方)
\(MS_{\mathrm{within}} = \displaystyle\frac{SS_{\mathrm{within}}} {n-k}\)(群内平均平方)
従う分布
\(F\sim F(k-1,n-k)\)
② 比率やカテゴリを比較したい
データが「人数」や「割合」の場合はこちらです。
カイ二乗検定(適合度検定)
理論上の割合と実際の割合が一致しているかを調べます。
例えば、「サイコロは公平か」「コインは偏っていないか」などです。
検定統計量
\(\chi^2= \displaystyle\sum_{i=1}^{k} \frac{(O_i-E_i)^2}{E_i}\)
- \(O\):観測度数
- \(E\):期待度数
従う分布
\(\chi^2\sim\chi^2(k-1)\)
カイ二乗検定(独立性の検定)
2つのカテゴリに関連があるかを調べます。
例えば、「喫煙と病気」「性別と商品の購入」「血液型と好きなスポーツ」などです。
検定統計量
\(\chi^2= \displaystyle\sum \frac{(O-E)^2}{E}\)
従う分布
\(\chi^2 \sim \chi^2((r-1)(c-1))\)
比率の検定
2つの割合を比較します。
例えば、「男女で合格率が違うか」「新旧広告でクリック率が違うか」などです。
帰無仮説
\(H_0\):\(p_1=p_2\)
検定統計量
\(z= \displaystyle\frac{\hat p_1-\hat p_2} {\sqrt{\hat p(1-\hat p) \left( \frac1{n_1}+\frac1{n_2} \right)}}\)
\(\hat p = \displaystyle\frac{x_1+x_2} {n_1+n_2}\)
従う分布
\(Z\sim N(0,1)\)(標準正規分布)
③ 分散(ばらつき)を比較したい
平均ではなく、「データの散らばり」を比較したい場合です。
F検定
2つの集団の分散が等しいかを調べます。
実は \(t\) 検定の前提条件を確認する目的でもよく使われます。
帰無仮説
\(H_0\):\(\sigma_1^2=\sigma_2^2\)
検定統計量
\(F= \displaystyle\frac{s_1^2}{s_2^2}\)
\(s^2= \displaystyle\frac1{n-1} \sum(x_i-\bar{x})^2\)
従う分布
\(F\sim F(n_1-1,n_2-1)\)
カイ二乗検定(母分散の検定)
母集団の分散が基準値と一致するかを調べます。
品質管理などで利用されることがあります。
帰無仮説
\(H_0\):\(\sigma^2=\sigma_0^2\)
検定統計量
\(\chi^2= \displaystyle\frac{(n-1)s^2}{\sigma_0^2}\)
従う分布
\(\chi^2\sim\chi^2(n-1)\)
④ 相関・回帰を調べたい
変数同士の関係を調べるときはこちらです。
相関係数の検定
「相関係数が0ではないか」を検定します。
例えば、「勉強時間と点数」「身長と体重」などです。
帰無仮説
\(H_0\):\(\rho=0\)
検定統計量
\(t= \displaystyle\frac{r\sqrt{n-2}} {\sqrt{1-r^2}}\)
従う分布
\(t\sim t(n-2)\)
回帰係数のt検定
回帰分析で「説明変数が本当に影響しているか」を調べます。
回帰式 \(y=\beta_0+\beta_1x+\varepsilon\) について
帰無仮説
\(H_0\):\(\beta_1=0\)
検定統計量
\(t= \displaystyle\frac{\hat\beta_1} {\mathrm{SE}(\hat\beta_1)}\)
従う分布
単回帰では \(t\sim t(n-2)\)
重回帰では \(t\sim t(n-p-1)\)
F検定(回帰式全体)
回帰モデル全体が有効かどうかを調べます。
帰無仮説
\(H_0\):\(\beta_1=\beta_2=\cdots=\beta_p=0\)
検定統計量
\(F= \displaystyle\frac{MS_{\mathrm{reg}}} {MS_{\mathrm{res}}}\)
\(SS_{\mathrm{reg}} = \displaystyle\sum (\hat y_i-\bar y)^2\)(回帰平方和)
\(SS_{\mathrm{res}} = \displaystyle\sum (y_i-\hat y_i)^2\)(残差平方和)
平均平方
\(MS_{\mathrm{reg}} = \displaystyle\frac{SS_{\mathrm{reg}}}{p}\)
\(MS_{\mathrm{res}} = \displaystyle\frac{SS_{\mathrm{res}}}{n-p-1}\)
従う分布
\(F\sim F(p,n-p-1)\)
⑤ 正規分布を仮定できないとき
\(t\) 検定などは「正規分布」が前提になります。
その前提を確認したり、満たさない場合にはノンパラメトリック検定を使用します。
シャピロ・ウィルク検定
データが正規分布に従うかを確認します。
帰無仮説
\(H_0\):\(\text{データは正規分布に従う}\)
検定統計量
\(W= \displaystyle\frac{\left(\sum a_i x_{(i)}\right)^2} {\sum(x_i-\bar x)^2}\)
従う分布
解析的な形では表せないため、Shapiro–Wilk検定固有の帰無分布(ソフトウェアで計算)を用います。
ウィルコクソン符号付順位検定
対応のある \(t\) 検定の代わりになります。
例えば、「前後比較」「同じ人を2回測定」などで、正規分布を仮定できない場合に使用します。
検定統計量
\(W=\displaystyle\sum \text{符号付き順位}\)
従う分布
- 小標本:厳密分布
- 大標本:標準正規分布による近似 \(Z\sim N(0,1)\)
マン・ホイットニーU検定
2標本 \(t\) 検定のノンパラメトリック版です。
独立した2群を比較したいときに利用します。
検定統計量
\(U= R-\displaystyle\frac{n(n+1)}2\)
従う分布
- 小標本:厳密分布
- 大標本:標準正規分布による近似 \(Z\sim N(0,1)\)
検定選びで迷ったら確認すること
検定は覚えるよりも、「質問に答える」ように選ぶと整理しやすくなります。
次の4つを順番に考えるだけで、多くの問題は判断できます。
- 何を比較したい?(平均・割合・分散・相関)
- グループはいくつ?(1群・2群・3群以上)
- 対応のあるデータか?(同じ人の前後比較か、別の集団か)
- 正規分布を仮定できるか?(できない場合はノンパラメトリック検定)
まとめ
統計の検定は種類が多く見えますが、「目的」で分類すると非常にシンプルになります。
| 目的 | 代表的な検定 | 検定統計量 | 従う分布 |
|---|---|---|---|
| 平均を比較 | t検定 | t | t分布 |
| 3群以上の平均 | ANOVA | F | F分布 |
| 割合・カテゴリ | カイ二乗検定 | χ² | カイ二乗分布 |
| 割合の比較 | 比率の検定 | Z | 標準正規分布 |
| 分散の比較 | F検定 | F | F分布 |
| 母分散 | 母分散の検定 | χ² | カイ二乗分布 |
| 相関・回帰係数 | t検定 | t | t分布 |
| 回帰式全体 | F検定 | F | F分布 |
| ノンパラメトリック | ウィルコクソン・マン・ホイットニーU | W・U | 厳密分布(大標本では標準正規分布で近似) |
このように整理すると、検定は単なる暗記ではありません。
「何を知りたいか」→「どの検定統計量を計算するか」→「その統計量が従う確率分布からp値を求める」
という流れで考えると、検定同士のつながりが見え、統計学を体系的に理解できるようになります。
さいごまで読んでいただきありがとうございました!
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